
原題:Philip K. Dick’s Electric Dreams
出演:アンナ・パキン、ジュノー・テンプル、ブライアン・クランストン、ほか
シーズン1:全10話
放映時間:47分~54分
Amazon Primeビデオで配信されている、フィリップ・K・ディック原作の短編をドラマ化した1話簡潔のオムニバスシリーズです。
タイトルには『フィリップKディックの~』とありますが、大幅にアレンジしているエピソードが多く、PKDファンにとってはちょっとがっかりな内容かと思います。
アマゾンでの評価は高いので、以下の感想はかなりひねくれた人の感想、ぐらいに思ってください(IMDbでも米アマゾンでも評価が割れてるので、そんなにひねくれてるわけじゃないかも)。
完全にネタバレしちゃっているので、閲覧にはご注意ください。
真生活(原作:展示品)

コリンという凶悪な犯罪者を追う女性刑事サラ。
精神的に疲弊していた彼女を見かねた恋人の勧めで、夢の中で別人になる”人生の休暇”を体験できる装置を使うことに。
夢の中で彼女は、VRゲームクリエイターのジョージとなり、妻を殺したコリンという犯罪者を追っていた。
サラがジョージになっている夢を見ているのか、ジョージがサラになっている夢を見ているのか、次第にわからなくなっていく…というお話。
多分シーズン通してこの話が一番おもしろいというか、テンポよくまとまっていた印象。
サラは夢の方を現実だと考えてしまい、結果目覚めぬ人になってしまいました。
そういえばノーラン監督作の『インセプション』でもこんな話がありましたね。
僕がこの装置を使ったとしたら、サラとは逆に、自分にとって居心地のいい方を現実だと認識してしまうのだろうな、と思いました。
サラパートの時代設定は未来なのに、予算の関係なのか未来を感じられるような場面が少なかったのが残念。
自動工場(原作:自動工場)

大陸間戦争によって荒廃した地球。
消費社会は崩壊したにも関わらず、自動生産工場は資源を浪費し環境を汚染し、不必要な製品を作り続けている。
エミリー達は、そんな自動工場を止めるべく、ある計画を実行に移す…というお話。
エミリーたちも実は機械だった!という話。
原作では、自動工場を停止させる目的が「人間の手による自立を目指すため」というものでしたが、ドラマでは「環境汚染を止めるため」というものに変わっています。
また、原作で自動工場から送られてくる製品は、別に不必要なものでもありませんでした。
主人公たちの作戦もオチも全く変わってしまっているので、原作のかなり皮肉のきいた寒々とした結末が一転、なんだか”感動げ”な普通の話になっていてがっかりしました。
どうせ主人公たちも機械なんだろうな、というのは容易に想像できてしまいますし、機械が愛に目覚めたのだ、というオチが好みではありませんでした。
人間らしさ(原作:人間らしさ)

威圧的な夫サイラスに怯える妻のヴェラ。二人の関係は既に冷え切っていた。
ある日、水を確保するためのレクサー星侵攻をサイラスが指揮することに。
レクサー星にて水は確保したものの、レクサー人の襲撃にあってしまう。
確保した水を守るための爆撃でサイラス達は死んだと思われていたが、間一髪のところでサイラスともう1人のクルーだけは助かっていた。
妻のもとに帰ってきた夫は、まるで別人のように優しく理想的な男になっていたのだが…というお話。
サイラスの中身はレクサー人だったけど、良い人なのでオッケー、というオチ。
自分に都合のいい男になれば中身が誰であろうが別にいいんかい!というモヤモヤだけが残る話でした。
もう一人のレクサー人はなんか危なそうな奴だったので、サイラスは演技をしてるだけなのでは?ともちょっと思いました。
また、タイトルにもなっている「人間らしさとは何か」というテーマを台詞で言わせてしまうのは全くもって上手くないです。
クレイジー・ダイアモンド(原作:CM地獄)

キメラ製造工場で働いているエド。
彼の前に、セクシーな女性ジルが現れる。彼女もキメラの1人だった。
ある日エドは彼女から大金を得られる違法な計画を持ちかけられる…というお話。
結局妻にもジルにも見捨てられ、エドは1人取り残されてしまいました、というオチ。
どっちつかずで誠実でない人にはバチが当たる、ということなんでしょうか。
話のオチとキメラの設定が別に関係無いし、何がいいたかったのかよく分からない、ぼんやりとした話でした。
作物の製造や消費期限まで全てが管理されている、という設定はよかったんですけどね。
というか、寿命が定められた人造生命体が云々ってほぼ『ブレードランナー』と一緒ですよね…
フード・メーカー(原作:フード・メーカー)

人々は、思考を読むことが出来る能力者たち、通称ティープを恐れ忌み嫌っていた。
ある日、ロス捜査官はティープであるオナーとタッグを組まされることになる。
街にはティープの能力を遮断するフードが出回り始め、2人はそれを製造しているフード・メーカーなる人物の捜査に乗り出すことになる…というお話。
初めは迫害されているティープに同情していたのですが、ティープの能力が怖すぎるので人々の反発だったり、フードが出回るのも当然だと思いました。
ティープは超強いので、ゲットーに住まわされているという設定にそもそも無理がありませんかね。
ティープが社会を牛耳っていたけど、一部のノーマル人間がフードを使って反乱を起こし始める、という流れの方が自然な気がします。
フードを被っている相手に対してティープは無力なので、フードが出回ったせいで反ティープの動きが強まったけど、逆にティープが暴動を起こし始めた、というのは筋が通ってないような。
うがった見方をすれば、「虐げられしマイノリティの逆襲」という流行りのポリコレ要素を、あまり考えなしに入れ込んだ結果なのかなと。
ロスにはティープの能力を遮断する能力があったという設定も、ロマンス要素を入れたかったための設定に感じられてしまいました。
話はアレですが、コスチュームや街のセットなど、全体の雰囲気づくりはかなりよく出来ていたと思います。
犯罪を予防するとか、ティープ達が互いにつながって巨大なネットワークになっているといったことから、原題の監視社会をモチーフにしているのでしょう。
ちなみに原作のほうがオチが鋭く面白かったです。
安全第一(原作:フォスター、お前はもう死んでるぞ)

徹底的に監視・管理された安全な街に、母親と共に引っ越してきた少女フォスター。
周りに溶け込みたい一心で、母親には内緒でみんなが持っている装置”デックス”を手に入れる。
それでも学校に馴染めないフォスターだったが、デックスの顧客サポートと交流を深めていくうちに…というお話。
デックスの声に操られ、プロパガンダの為に利用されていた、というまったくひねりのないオチ。
可もなく不可もなく、特にこれと言った感想が思い浮かばない話でした。
父さんに似たもの(原作:父さんもどき)

野球少年チャーリーは、優しい父親が大好き。
キャンプに行った2人は、大量の流星群が降り注ぐ光景を目撃する。
それから何日か経ったある日、チャーリーはガレージで父親が父親のような生物に吸い込まれていくところを見てしまう。
何もなかったように振る舞う父親だったが…というお話。
Amazonのページに書いてあるあらすじ以外のことは何も起こらないボディ・スナッチャー的なホラーで、特にこれといった新しさ、面白さはありませんでした。
そもそも序盤で父親が父親じゃなくなるところをはっきり目撃しちゃうので、その後の盛り上がりがなくなってしまってます。
ふとした会話やしぐさなんかで、ちょっとずつ何かがおかしいということに気づく、という流れのほうがまだ面白く出来たのでは。
というかこれ、外見はそっくりでも中身が宇宙人と入れ替わってしまっていたという、ほぼ『人間らしさ』と同じ内容ですよね。
中身が大事、というテーマ的なことを最後に言いますが、それだと『人間らしさ』のように中身がオリジナルより良くなっていればそれでいいのか、という問題にぶち当たります。
ありえざる星(原作:ありえざる星)

チープな惑星ツアーを提供しているアストラル・ドリーム社。
そこに、今は生命が死滅した惑星、地球に連れて行ってほしいと言う老婆イルマが現れる。
アンドリューズと、異動の申請を却下されたノートンは、地球に似た適当な星に連れて行って金を受け取ろうと考えたが…というお話。
僕がバカなのか、オチがよく分かりませんでした。
地球っぽい惑星にノートンとイルマが降り立ったらなぜかイルマが若返って、幻視で見ていた湖で泳ぐというオチなんですが。
イルマが見せた祖父の写真がノートンそっくりだったのも、ノートンが誰かと自転車に乗っている幻視を見るのも、急にイルマが若返ったのも、2人が恋仲になるのも全部意味が分かりません。
イルマの祖父とノートンはたまたま似ていただけ、最後のシーンは彼らが死ぬ前に見た幻覚だったということ?
でも自転車のビジョンは説明がつかないよな…
誰かオチを解説してくれないかなー。
地図にない町(原作:地図にない町)

駅員として働くエドの前に、メイコン・ハイツまでの切符を買いたいという客が現れる。
しかしメイコン・ハイツという駅は路線図には存在せず、そのことを問いただすと客は目の前からふっと消えてしまう。
不思議に思ったエドが実際に電車に乗ってみると、たしかにメイコン・ハイツという場所は実在していて、すごく居心地のいい所だったのだが…というお話。
存在しなかったはずの町メイコン・ハイツを訪れたことで、あり得たかもしれない別の人生が手に入る、というタイム・パラドックス的な話。
なかなか面白かったです。
町へ行った人とその周りの人が影響を受けているっぽいのですが、その影響の範囲はどれくらい広まっているのか、具体的にどういう影響なのか、というのがはっきりせずモヤモヤしました。
近所が綺麗になっていたし、同僚が子持ちになっていたので、相当な影響を及ぼしているはずです。
となると、主人公が町に行かなくなったとしても、別の人が町に行ったことによって主人公が影響を受ける可能性は大いにあるので、主人公の選択自体ににそれほど意味はないのでは?と思ってしまいました。
居心地のいいぬるま湯が具現化したような町で、自分だったらこの町に足繁く通うだろうなあ、と思ってしまいました。
主人公の決断はなかなか出来るもんじゃない。
あと、不思議さを演出したかったのかもしれませんが、駅はちゃんとあった方がよかったと思います。
乗客が町付近になったら走行中の電車から飛び降り出すのに周りは無反応とか、帰りに電車に乗るのが大変すぎるだろ、とかがノイズになってしまいました。
メイコン・ハイツという町はあっても駅はないし、リンダ以外は普通に切符を買って電車に乗ってたわけで、はじめのリンダの行動はおかしいと思ったのですが、あれは主人公をあの町に引き寄せるための行為だったのでしょうか?
よそ者を殺せ(原作:吊るされたよそ者)

北米統一国家のトップ候補者がした「よそ者を殺せ」という発言に疑問を抱いたフィルバート。
しかしニュースでもネットでもそのことを取り上げている人は1人もいない。
”よそ者”という理由で暴行を受ける女性や、「KILL ALL OTHERS」の広告看板に吊るされた死体を見ても、フィルバート以外の人は全く気に留める様子がない…というお話。
社会に適応出来ない人は排除されていく。たとえその社会が狂ったものであっても。というちょっと恐ろしい話でした。
しかし『父親に似たもの』と同じくサスペンス感を煽るのが下手で、特に面白くはなかったです。
ホログラム広告とイチャイチャする、という設定だけは面白かったですが。
原作は、主人公が地下で作業をしていた間に主人公以外の町の住人が宇宙人と入れ替わっていた、という話で、スピーディな展開かつ切れ味鋭いオチがついてる面白い話だったんですけどね。
おわり
この手の作品をよく観ているせいか、全体的に序盤の段階で話が読めてしまう上に、オチに至るまでの流れが特別面白いというわけではないので、なんとも物足りないドラマでした。
ビジュアルにもアレンジにもフレッシュさが無く、既視感のある話ばかりになってしまっていたのが残念。
逆にこういった作品を普段ぜんぜん観ない、という層にはウケるのかもしれません。
個人的には、PKD作品にインスパイアされさらに発展させたような作品があふれている今、あえて原典を実写化した意味はなかったんじゃないの?と思いました。
ほとんどのエピソードが原作を大幅にアレンジしてしまっているので、「フィリップ.K.ディックの~」というタイトルに偽りありじゃない?と感じてしまいました。
テレンス・ハワードやブライアン・クランストン、ベネディクト・ウォンなど、なかなかの有名キャストが出演していますが、キャストに対して話も絵面も負けちゃってる気がします。
キャスト以外に金をかければよかったのに、とすら思ってしまいました(特にイントロは近年稀に見るダサさ)。
好みの問題もあるのでアレですが、個人的には『真生活』と『地図にない町』以外は観なくてもいいかな、と思います。
その他のエピソードは『ブラック・ミラー』の面白くないゾーンの作品(S2の第3話、S3の第5話、S4の第5話)と同じかそれ以下のクオリティだったので、『ブラック・ミラー』を観れば十分という感じでした。
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