
ついに日本語版が発売された『ディスコエリジウム ファイナルカット』をとりあえず2周クリアしたので感想を書いておきます。
プレイ時間はだいたい50時間ほど(1周クリアに20〜30時間くらいのボリューム)。
こんなゲーム
パッケージ裏に「アブノーマルなRPG」とあるとおり、本作は典型的なRPGとは趣がかなり異なるゲームになってます。
街のチンピラを倒してレベルを上げ、お金を巻き上げていい装備を買って、みたいなゲームを想像していたなら、思ってたんと違う…となること間違いなし。
本作におけるRPGは「役になりきって遊ぶ」という本来の意味に近いもの。
全てを腕力で解決する脳筋刑事になるもよし、酒に溺れる酔いどれ刑事になるもよし、訳の分からない終末論を唱える黙示録刑事になるもよしと、幅の広いロールプレイが楽しめるようになってます。
※会話を通してのレベルアップと装備によるスキルの強化という典型的RPG要素も存在します

主人公は、自分の顔も名前すらも思い出せない記憶喪失の刑事。
ゲームは、寂れた港町「マルティネーズ」で起きた首吊り殺人事件を解決するために町を探索し、一癖も二癖もあるNPCたちと会話を交わして捜査する、アドベンチャー・ノベルゲームのような形で進行していきます(なので、TRPGっぽいとも言えます)。
事件に関わることよりも、政治的思想、宗教、人種、哲学といったとっつきにくい話題が多く、台詞だけでなく情景や表情、動作の描写すらも文書で語られていくので、文章量は膨大かつ難解(ナレーションや台詞にはちゃんとした英語音声がついています)。
正直、2周プレイしても言ってることがさっぱり分かんないキャラがいますし、歴史や政治関連の話は難しく、理解できているのか怪しい部分が多々あります。
ゲームをプレイしているというより、ハードボイルドな探偵小説を読んでいるような感覚です。
『Life is Strange』や『Detroit: Become Human』など、映画的な手法で描かれたアドベンチャーゲームとは真逆なので、長文を読むのが苦ではないプレイヤー以外は楽しめない可能性が高いので注意。
日本語訳は素晴らしい出来。売り上げもそんなに望めないだろうに、丁寧な翻訳をしてくれたことにはただただ感謝しかありません(わざわざ訳注が付いてるゲームなんて初めて見ました)。


主人公のステータスは、「知性」「精神」「肉体」「運動能力」という4つの基礎能力と、各基礎能力に紐付いたユニークな6つのスキル(計24のスキル)で構成されています。
ゲーム開始時に基礎能力に8ポイントを割り振り、主人公のアーキタイプを決定(あらかじめポイントが割り振られた3つのデフォルトタイプも用意されています)。
基礎能力値によって、それに紐付いたスキルの初期値および成長上限値が決まります。
知性の値が高ければ用語を理解したり言外の意図を探ったりするのが得意になり、肉体の値が高ければドアをこじ開けたり人を殴ったりするのが得意になる、というわけです。
また、ゲームを進めていくと「思考キャビネット」というシステムが使えるようになります。
特定の条件を満たして手に入れた「思考」を装備すると永続的なバフ/デバフがもたらされるシステムで、スキル強化と合わせてキャラカスタマイズの重要な要素になっています。

会話において、指定されたスキル値とダイスロール(運)によって成否が決まる、「スキルチェック」と呼ばれる選択肢が登場することがあります。
例えスキル値が低くても運が良ければ成功するし、それまでの会話の選択や捜査の進行具合によって成功率が大きく上下するなど、ある程度の柔軟さを持っているのが特徴。
スキルチェックの成否によって、重要な情報を引き出せたり、新たなタスクが発生したりします。
また、これは周回して分かったのですが、スキル値が一定以上ないとそもそも選択肢として現れないスキルチェックが多数あり、リプレイ性を高めています(柵に突っ込んだ車のタイヤ痕の追跡、突っ伏して寝ている男から物品を盗む、などなど)。
気に入った点
やかましいスキルたち

面白いのは、24種類のスキルそれぞれに個性的な人格が設定されているという点。
用語の解説をしてくれる「百科事典」、芝居がかった言い回しをする「演劇」、男尊女卑でマッチョな「耐久力」など、スキルごとに特徴があって、会話中ことあるごとに口を挟んできます。
スキルたちの声に助けられたり、惑わされたり、はたまた操られたりしながら読み進めていくのがすごくユニークで面白かったです。
会話中に口を挟んでくる頻度はスキル値によるので、周回するのが楽しい作りなのも👍
実在感のある世界
架空の世界「エリジウム」の設定の作り込みが異常。本当にどこかに実在する世界のように感じられるほどです。
ゲームの舞台「マルティネーズ」がある群島「インスリンデ・イソラ」をはじめとして、約8000年分の歴史、他の大陸の地理や文化、民族、宗教的な背景までもが徹底的に作り込まれています。
舞台を変えればいくらでも続編が作れそう。
とにかく情報量の洪水で理解が追いつかない部分が多々あったので、スキル「百科事典」と特典で付いてきた「捜査ハンドブック」はかなり役に立ちました。
個性豊かなNPC
頼れる相棒のキム・キツラギ警部補はもちろん、異常に口が悪いクソガキのクーノ、ストライキ交渉のために派遣された知的マダムのジョイスなどなど、そこに生きるNPCたちは実在感たっぷりに描かれています。
ひとりひとりの個性が強烈に感じられ、印象に残るキャラクターばかり。
正直なところ、事件の捜査というより、彼らの話を聞くのが楽しくてプレイしていたのかもしれません。
ちなみにぼくは(というか本作を遊んだほとんどの人がそうだと思いますが)、キムとクーノが大好きです。
予測不能で楽しい展開
探索を進めていくとタスクという形で様々な捜査項目が舞い込んできます。
本筋の事件には関係なさそう、と見せかけて思いもよらない方向から繋がってきたり、やっぱり繋がってこなかったりで、読み進めるのがとにかく楽しい。
タスクを遂行するルートは複数用意されていることもあり、周回時にはこういうルートがあったのか!という発見も楽しめました。
主人公がゲーム開始時より前はどんな奴だったのかを探る部分もかなり面白かったです。
スキルチェックに関しても、常に成功が良くて失敗が悪いとは限らず、成功したことでより難解になってしまったり、失敗したほうが面白い会話が引き出せたりするのもユニークだと感じました。
スキルチェックのランダム性とも合わさって、先の読めない展開、自分の思い通りにならない展開が幾重にも用意されていて、思わず周回したくなります。
※メインストーリーだけで言えばそこまでリプレイ性は高くないですが
スキルチェックはリセマラできますが、初見時にはゲームオーバーになってしまった場合を除き、リセマラせずにプレイすることを強くオススメします。
全体的に政治思想が極端に描かれすぎているきらいはありますが、全体的にブラックコメディのような雰囲気で、重々しくならずに楽しめるバランスなのも凄く良かったです。

また、肉体も精神もヨワヨワなアーキタイプを選んだ場合の序盤に限った話になりますが、シーリングファンに引っかかったネクタイを取ろうとして死んだり、椅子の座り心地が悪すぎて死んだりと、予測不能なダメージによる唐突なゲームオーバーも面白すぎました。
気になった点
面白さにはさほど影響しない些細なものですが一応。
微妙な操作性
もともとマウスによるポイント&クリック操作で遊ぶPCゲームなので、コントローラーでの操作性はちょっと微妙。
まず右スティックでオブジェクトを選択してから決定ボタン、という操作があまり直感的じゃないです。
また、地形の見た目と当たり判定がちょっと変なのか、引っかかりながら移動している感じになってしまったり、移動可能範囲や道の繋がりが分かりにくい場所もあり、若干のストレスを感じました。
Nintendo Switch版はタッチ操作に対応してるので、ポイント&クリックに近い操作ができて遊びやすいです(が、画面が小さいので、適宜ボタン操作もする必要あり)。
コンソールで遊ぶならSwitch版一択と言いたいところですが、Switch版では光の演出が凝っている場所で処理落ちしたり、不意のエラー落ちが何度か発生したりとパフォーマンスにやや難があるので一長一短。
可能ならやはりPCで遊ぶのがベスト…いや、Switchの手軽さも捨てがたい…ってことはSteam Deckがベストなのかも?
不便なファストトラベル
ファストトラベルは、地図を入手した状態で特定の地点にいるときにのみ使えるというもので、使い方についてのチュートリアルメッセージは一切ありません。地図の入手すらも任意です。
使える場所は3つしかないし、配置もちょっと微妙。
ファストトラベル機能に気づかず、移動がちょっと面倒だと思いながらクリアしてしまう人もいるのではないでしょうか。
なぜこんな不便なシステムにしたのか、意図がよく分かりませんでした。
不便な装備画面
装備品は単なるオシャレ用のアイテムではなく、スキル値が増減するので頻繁に付け替えることになりますが、数十のアイテムが一覧でズラッと表示されるだけ。
部位別ソートだったり、指定したスキル値が最大になるように自動で装備するといった便利機能は一切ありません。
アイテム一つ一つのスキル値なんていちいち覚えてられないので不便です。
不便なスキルチェック一覧
ジャーナルでは、遭遇したけどまだ成功していないスキルチェックとその場所が一覧で表示されます。
が、指標となるスキル値は表示されず、ゲームの進行により実行不可能になったスキルチェックもずっと表示され続けるため、あまり役に立ちません。
一応、スキルチェックの難易度(簡単、不可能など)は表示されるので、どれぐらいのスキル値がいるのかは推測できますけど…
おわり
名作であることは間違いないですが、好みがハッキリと分かれそうな、かなりニッチな作品だとも言えるのでは。
ぼくの場合は、記憶喪失の主人公と同じく右も左もわからない状況の中、手探りで遊んでいるうちにどんどんのめり込んでしまいましたが、文章ばっかだし内容はピンと来ないしで退屈なゲームだと感じる人も多そう。
周回するほど楽しめたけど、人にはオススメできないゲームNo.1!っていう感じのゲームでした。
興味があったら遊んでみてね。でも責任は持ちません。
以上。ではまた。
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