『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』圧倒的な不穏感。前作より好きかも

Josh Brolin, Benicio Del Toro, and Isabela Moner in Sicario: Day of the Soldado (2018)

原題:Sicario: Day of the Soldado
監督:ステファノ・ソッリマ
脚本:テイラー・シェリダン
出演:ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、イザベラ・モナー、ほか
上映時間:2時間2分

アメリカとメキシコ麻薬カルテルの戦いを描いた『ボーダーライン』の続編。
『ボーダーライン』『ウィンドリバー』『最後の追跡』を手がけた実力派テイラー・シェリダンが今作の脚本も担当。
前作の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ、撮影監督ロジャー・ディーキンス、音楽ヨハン・ヨハンソン(2018年2月に死去)といったメインスタッフが続投していないので、名ばかりの続編かと思いきや…

あらすじ
アメリカ・メキシコ間の国境における取締が厳しくなるなか、メキシコからの密入国者は後を絶たない。
メキシコの麻薬カルテルは密入国者を手引きすることで莫大な利益を得ていた。
国境警備隊が密入国者の集団を発見するが、その中のひとりが逃亡を図り、逃げられないと悟ると祈りを捧げてから自爆した。彼はムスリムであった。
一方、カンザスシティではISISと見られる集団による自爆テロが発生し、15人もの命が失われた。
麻薬カルテルがISISと共謀しアメリカを攻撃していると判断した国防総省は、麻薬カルテルを撲滅すべくカルテル同士の内戦を勃発させるよう、CIAエージェントのマットに命じる。
マットは殺し屋のアレハンドロに協力を要請、寄せ集めの精鋭達で部隊を組織し任務にあたる。
麻薬王カルロス・レイエスのカルテルとマタモロス・カルテルの幹部らをカルテル同士の抗争に見せかけ殺害していくマット達。
極めつけに、レイエスの娘イサベラをマタモロス・カルテルの仕業に見せかけ誘拐し、手のこんだ自作自演の救出劇を遂行。
”救出した”イサベラをメキシコに連れ帰る途中で、護送にあたっていたメキシコ警察と待ち伏せしていたカルテルに突如攻撃されてしまう。
やむなく応戦したマット達だったが、その混乱に乗じてイサベラが姿を消してしまう。
イサベラの行方を追うアレハンドロ。
一方、メキシコ警察殺害によりメキシコ政府との関係悪化を恐れた国防総省はマットたちを切り捨て、マットは作戦を隠蔽するためアレハンドロとイサベラを始末せざるを得なくなってしまう…

前作から引き続き登場しているのは、CIAのマット(ジョシュ・ブローリン)、スティーブ(ジェフリー・ドノヴァン)、コロンビアの殺し屋アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)。
前作の主人公だったケイト(エミリー・ブラント)は登場しません。
主人公が登場しないの!?と思うかもしれませんが、前作を思い返せば全く問題なし、というかむしろ当然。
ケイトはどんなキャラだったかというと、右も左も分からないまま麻薬戦争の最前線に放り込まれるという、あくまで観客を同じ目線に引きずり込むためのキャラで、ストーリーではほとんど蚊帳の外におかれていました。
観客と同じ目線、いわば観客の分身であったケイトが消えた今作では、麻薬戦争の当事者達によりフォーカスした話になったと言えるでしょう。

前作はケイト目線ということもあって、マットもアレハンドロも底が見えないどこか得体の知れない怪物のような人物として描かれていましたが、今作では彼らの人間性が薄っすらと垣間見えるような描かれ方をしていたのが印象的でした。
人間性が増したマットですが、ゲス感も前作以上にパワーアップ。
ソマリアの海賊を尋問する際、どっちが悪者なんだよ…と思うような、とんでもなく極悪非道なやり方で口を割らせます。
また、今回は前作以上にアレハンドロが大活躍します。
彼の一番の見せ場が予告編でもあったこれ↓

セミオートの銃器を、反動を利用して擬似的にフルオートのように連射する「バンプファイア」という技らしいです。
見た目のインパクトがあるだけでなく、カルテルの処刑に見せかけた上で、アレハンドロの復讐心も表現するというダブルの意味があるんですね。
カルテル襲撃、イサベラ誘拐、メキシコ警察との戦闘、どのシーンも凄まじい緊迫感でした。

中盤からは、当初のカルテル同士の内戦を勃発させて一石二鳥を狙うという目的が潰え、そもそもの前提だった事実が覆った上に(テロ犯は密入国者ではなくアメリカ市民だった)メキシコ政府との軋轢を恐れた上層部から切り捨てられたマットは、アレハンドロとイサベラの始末を命じられます。
上からの命令に従うだけっすよ、なんて言っていたマットでしたが、死地をともにしたアレハンドロの始末を命じられ、兵士(Soldado)として苦悩することになります。
彼が終盤下したある決断は、明らかに兵士としては逸脱したものでしたが、だからこそシビレました。
一方でアレハンドロがイサベラをなんとかアメリカまで連れて行くという話では、彼のかすかな人間性を垣間見ることが出来ます。
親のせいで、否応なく地獄の世界に引きずり込まれてしまう子供に対する情を感じました。

前作ではいかにもカルテルとの戦いを知り尽くした、分かっているはず、うまく立ち回れているはずだった男たちが、今作では一転して、状況をコントロールできずにただなんとか切り抜けていくしかなくなってしまうという展開は、麻薬戦争の闇の深さを思い知らされるような感じで、前作以上にスリリングでした。
リドリー・スコットの傑作『悪の法則』を思い出したり。
アメリカが国境の取締を強化すればするほどカルテルが儲かるという強烈な皮肉だったり、早とちりした上層部による非人道的作戦、そして手のひら返しだったりと、単なるフィクションとしてではなく、現実にありそう…と思わせる点もポイント高し。
アメリカで一般受けがあんまりなのは、こういうアメリカ政府を皮肉った要素があるからなのかも。と思ったり。
カルテルの世界に足を踏み入れてしまった少年のサブプロットが絡み先が全く読めないハラハラする展開、かすかに残された人間性が爆発する終盤、そして渋いラストと、全編通してめちゃくちゃ面白かったです。
絶賛されていた前作とは対照的に今作の評価は割れているようですが、個人的には前作より好きかもしれません。
テイラー・シェリダンは初めから3部作として構想していたらしいので、続編にも期待大です。

ひとつ気になったのは、アレハンドロの復讐って前作で果たしたんじゃなかったっけ…?という点。
前作でアレハンドロがぶっ殺した麻薬王ファウスト・アラルコンが妻子の殺害を命じたって話だと思っていたんですが。
今作ではレイエスの部下が妻子を殺したと言っていたので、アラルコン傘下だったアレハンドロの部下が妻子殺害を実行、その後アラルコンが死亡してレイエスが台頭したということなのかな?

今作の監督ステファノ・ソッリマさん。
観る前は、誰?なんでドゥニ・ヴィルヌーヴじゃないんだよ…とか思ってました。ごめんなさい!
終始不穏でヒリヒリするような、何かが根本的にうまくいっていないぞ…という緊張感あふれる雰囲気の演出が非常に巧みですし、思わずギョッとするようなバイオレンスをこれみよがしではなくサラッと見せてくるあたりも良かったです。
今後目が離せない監督の1人になったことは間違いない!
彼が監督・脚本を務めている、麻薬の密輸を描くAmazonのドラマ『Zero Zero Zero』(2019年に配信予定)が楽しみです。
噂では映画版『Call of Duty』を監督するとかしないとか。

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