クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET(テネット)』を2回鑑賞して理解した気になったので、自分なりの解釈で解説・考察を書いていきたいと思います。
今回は、タリンで行われるカーチェイスの解説・考察です。

もちろんネタバレ全開です。
「あれはどうなの?」という疑問や、「ここは違うんじゃない?」というツッコミも大歓迎です。
このシーケンスは、順行している主人公&ニール、逆行しているセイター、順行しているキャットが同時に併走していて、セイターが逆行しているというのが一見分かりづらくなっていたり、途中で逆行するセイターと順行するセイターが同時に登場したり、さらには逆行する主人公の視点も加わったりするので、めちゃくちゃややこしいです。
本作で理解するのが一番難しいところだと感じました。
ちなみにエピローグを除けば、このシーケンスが劇中で起こる最も未来の出来事になります。
概要
主人公とセイターとキャット、それぞれの視点から、このシーケンスで一体何が起こっていたのかを順を追って見ていくとしましょう。
赤文字が順行しているとき、青文字が逆行しているときを表しています。
主人公の視点
- はしご車を使って、241(アルゴリズムのパーツ)の強奪に成功
- ニールが運転するBMWに乗り込む
- 右側のドアミラーが破損していることに気づく
- ケースを開け、241を確認する
- 主「こんなプルトニウムの容器は見たこと無い」、ニ「それが目当てののブツだ」
- セイターの無線を傍受すると、逆さまで喋る声が聞こえてくる
- 前方から不審な動きをしながら、バックで近づいてくるAudiを発見
- Audiとすれ違いざまに接触し、ドアミラーが”直る”
- AudiがUターンしてバック走行で追いかけてくる
- ニールが振り切ろうとするが、並ばれてしまう
- Audiの後部座席の窓が開き、酸素マスクをつけたセイターと、彼に銃を突きつけられているキャットが現れる
- セイターがカウントダウンし始める(3)
- 前方でクラッシュしていたSAABが、逆横転してバック走行をし始める(2)
- ケースをセイターに投げ渡し、241をこっそりSAABに投げ入れる(1)
- ケースを受け取ったセイターはドライバーとともに、合流してきたMercedesに乗り込んで去っていく
※MercedesとAudiの向きは逆、つまりMercedesを運転しているのは順行のドライバー - 走り続けるAudiにキャットが取り残される
- Audiに乗り込み、前方の渋滞に到達する前にブレーキを押し、何とかキャット救うことに成功する
- その直後にセイターの部下が登場し、銃撃戦となる
- 「応援を呼ぶ」と言ってニールが姿を消す
- 主人公とキャットは拘束され、フリーポートへと連行される
- 主人公は赤い部屋、セイターとキャットは青い部屋に入る
- ガラス越しにセイターと向かい合う
※このとき、逆行セイターはマスクをしておらず、順行キャットがマスクをしている
つまり、青側では逆行者だけが呼吸できるようになっている - セイターに「ケースはBMWか?」と聞かれる
※赤と青の部屋には、互いの声が逆再生されて届く仕組みがあるので会話ができる - ガラスにめり込んだ銃弾と血痕に気づいた瞬間、キャットの腹を逆行弾が貫く
- 「次は頭だ」と脅される
- 「BMWのグローブボックスにある」と答える
- 赤い部屋にもセイターが現れ「どこだ早く言え!」と脅される
- 困惑しながら「もう言った」と返す
- アイブスの部隊が突入してくるが、どちらのセイターも回転ドアの向こうへと消える
- 行動がセイターに筒抜けだったことから、裏切ったのかとニールに詰め寄る
- それに対して、アイブスは「時間の挟み撃ちにあったんだ」と言う
- アイブスの部下が、青い部屋からキャットをストレッチャーに乗せて運んでくる
- 逆行弾に撃たれて致命傷を負ったキャットを救うために、回転ドアに入り逆行する
~ここから逆行~
- ニールやストレッチャーに乗せられたキャットたちと回転ドアから出る
- ニールの制止を振り切り、セイターを止めてキャットを救うため外に出ると告げる
- ホイーラーから、逆行したときの注意事項をざっくり教えてもらう
- ケースのトラッカーがまだ使えることをニールに確認し、スマホとイヤーセットを受け取る
- フリーポートから出る
- 外に停まっていたSAABに乗り込み、後部座席を見る
- スマホ上の追跡信号を見ながら、捨ててあるケースのもとまでたどり着く
- セイターの会話を盗聴するため、ケースの中にイヤーピースを仕掛ける
- ケースがMercedesに戻っていくのを見る
※逆行視点でケースの動きが逆再生で戻っていくので、ケースを投げ捨てたのは順行の手下 - セイターが乗るMercedesを追跡する
- セイターが「ケースは空だ。残りのアルゴリズムを爆心地へ集めろ」と指示しているのを聞く
- セイターらがAudiに乗り込んでいるところに追いつく
- セイターのAudiと過去の自分のBMWに挟まれる形になる
- セイターの手元からケースが過去の自分の手元に戻るとき、同時に後部座席にあった241も過去自分の手元に戻っていく
- それをセイターに見られてしまう
- セイターによって横転させられる
- セイターがとどめを刺すために近づいてくる
- 「連携プレーか。無駄に妻を撃った」とセイターは言い、SAABから漏れ出しているガソリンに火をつける
- 低体温症になり意識を失う
- 追いかけてきていたニールに救出され、オスロ空港行きのコンテナへ
セイターの視点
- キャットをフリーポートに連れていく
- キャットに銃を向けられたため逆上し、暴行を加える
- 「逐一報告しろ」と部下に伝え、自分は赤の部屋の手前の空間に隠れる
- 無線で部下からの報告を聞きながら、主人公たちが到着するのをひたすら待つ
- 主人公が赤の部屋に連行されてくる
- 未来の自分に主人公が尋問される
- 赤の部屋に入り、「どこだ早く言え!」と主人公を脅す
- アイブスの部隊の突入とほぼ同時に、回転ドアに入る
~ここから逆行~
- 回転ドアから出ると、突入してきたアイブスの部隊が逆戻りして出ていく
- 部屋の隅にかけてある酸素マスクを取る
- 赤い部屋の自分が主人公を尋問して逆戻りで出ていく
- 主人公が「BMWのグローブボックスにある」と答える
- 撃たれて血を流すキャットを立ち上がらせ、「次は頭だ」と脅す
- キャットを”撃ち”、キャットの傷が治る
- 「ケースはBMWか?」と主人公に聞く
- キャットの口にマスクを当てつつ、青い部屋を出ていく
- フリーポートから出る際にキャットの酸素マスクを外し、自分は酸素マスクをつける
- 順行の手下にキャットを”引き渡し”、自分はMercedesに乗り込む
- 銃撃戦のあった場所に向かいBMWのグローブボックスを確認するものの、241は見つからず
- Mercedesで捨てられたケースの場所まで向かい、ケースが手下の手元に戻る
- 「ケースは空だ。残りのアルゴリズムを爆心地へ集めろ」と部下に指示する
- キャットの乗るAudiに、逆行ドライバーとともに乗り込む
- 順行主人公のBMW、逆行主人公のSAABと並走する
- 持っているケースを順行主人公に”投げる”
- キャットに銃を突きつけ、カウントアップしていく(1)
- SAABから241が飛び出し、順行主人公の手元に戻るのを目撃する
- 逆行主人公のSAABを横転させる
- カウントアップを続ける(2、3)
- 後部座席の窓を閉め、順行主人公のBMWの”前”をピッタリくっついて走る
- UターンしてBMWを抜き去るときに接触、BMWのサイドミラーが破損する
- クラッシュしたSAABの前で停車
- SAABの中にいる主人公に向かって「連携プレーか。無駄に妻を撃った」と言い、漏れ出しているガソリンに火を付ける
- フリーポートに戻り、キャットを”降ろす”
- おそらくそのまま逆行を続け、2週間前のベトナムで順行に戻る
キャットの視点
- セイターにフリーポートに連れて行かれる
※このとき、フリーポートの外にAudiが停まっており、中に酸素マスクをつけたドライバーがいるのをフェンス越しに目撃 - セイターに脅される
- セイターに銃を向けるが、逆上したセイターに暴行される
- セイターが「逐一報告しろ」と部下に伝え、奥の部屋に消える
- セイターの部下に連れ出され、Audiに乗せられる
- 後部座席には、なぜか酸素マスクをつけているセイターがいる
- Audiがバック走行でハイウェイを爆走し始める
- 途中で、横転して爆発しているSAABのそばで停車する
- セイターが降りてSAABに近づくと爆発が収まり火が消えていき、セイターがライターを”拾う”
- セイターが戻ってきて、再びAudiはバック走行でハイウェイを爆走する
- BMWに追い抜かれたと思ったら、Uターンしてバック走行でBMWを追いかける
- BMWと並走し始め、そのBMWには主人公が乗っていることがわかる
- セイターが後部座席の窓を開け、銃を突きつけてくる
- セイターがカウントダウンし始める(3)
- さっき爆発が収まった謎のSAABが、急に逆横転して並走し始める(2)
- 主人公がケースをセイターに投げる(1)
- ケースを受け取ったセイターはドライバーとともにMercedesに乗り移る
- バック走行で走り続けるAudiに1人取り残される
- その長身を活かして、後部座席から足を伸ばしてドアのロックを解除する
- 間一髪で乗り込んできた主人公に助けられる
- 銃撃戦になり、セイターの部下に連行される
- 酸素マスクを付けたセイターが再登場し、酸素マスクをつけられる
- 青い部屋に連れて行かれる
- セイターが、ガラス越しに赤い部屋にいる主人公に何かを聞く
- 椅子から立たされ、ガラスに背を向けた状態になる
- 後ろから前に向かって、弾丸がお腹を貫通する
- 赤い部屋にアイブスの部隊が突入し、セイターが回転ドアの向こうに消える
- アイブスの部下にストレッチャーに乗せられ、外側から赤い部屋に連れて行かれる
- 回転ドアに入る
~ここから逆行~
- 回転ドアから出る
- オスロ空港行きのコンテナへ
細かく解説してみる
以上が、主人公とセイターとキャット、それぞれから見たこのシーケンスの概要です。
では、細かいところを解説・補足していきたいと思います。
まず、241はオペラハウスでのテロ事件の後にウクライナ保安庁の手に渡り、そこからタリンを経由して、イタリアのトリエステにある核保管施設へと運ばれることになっていました。
キエフ→タリン→トリエステって、輸送経路がものすごく遠回りなんですよね。
なるべく陸路で運びたくなかったからなのかなと思いきや、地図で調べるとキエフ↔タリンとキエフ↔トリエステの距離ってそこまで大きな差がありません。
タリンからトリエステまでずっと船で運ぶとしたら、北側をぐるっと回ってジブラルタル海峡を通過するルートになると思うのですが、ものすんごい遠回りです。
241がなぜウクライナ保安庁がからイタリアにある施設に輸送されるのかもよくわかりませんでした(わざとセイターに241を奪わせるためTENETが仕掛けた罠なのかも?)。
セイターを出し抜いて241を回収してキャットも助ける、というのが主人公の計画でしたが、セイターは主人公による241強奪作戦がハイウェイで行われることを既に知っていました(おそらく、ヨットで確認していた金塊と一緒に入っていた未来の新聞から、そのことを知ったのだと思われます)。
そこからセイターは、キャットを人質にとった上で、強奪作戦直後のハイウェイで241を主人公から奪うという計画を立てます。
さらに、241の回収を確実なものとするため、過去(セイターの時系列で言えば未来)からの報告を利用する「時間挟撃作戦(Temporal Pincer Movement)」を実行します。
赤の部屋の前の空間でじっと待っていたのは、過去の動きになるべく影響を与えず、かつすぐに過去に逃げられるようにしたかったからなのでしょう。
キャットの視点で見ると、順行のセイターに暴行されたあと、逆戻りするセイターと手下に連行され、ハイウェイをバック走行で爆走することになります。
キャットは逆行という現象を知らなかったと思うので、ここで起きたことをキャットの目線になって考えてみると、めちゃくちゃ怖すぎます。
そもそも、さっき奥の部屋に消えていったと思った夫が、急に酸素マスクをつけて待っていた時点で、全く意味がわからなかったでしょう。
無事241が入ったケースの回収に成功した主人公は、BMWのサイドミラーがなぜか破損していることに気づきます。
このサイドミラーの破損描写は、キャットや逆行主人公の負傷描写や、逆行ニールの死の描写と絡んでかなり面倒な問題を引き起こしていますが、それは別口で解説したいと思います。
ケースにはオペラハウスでも見た241が入っていたわけですが、主人公は「こんなプルトニウムの容器は見たことないぞ!」と、まるで初見みたいなリアクションを取っていました。
いや、あんたオペラハウスでも見たやん、と思ったのですが、オペラハウスでの救出作戦は機密事項だったからニールにバレたらマズイと思って(ニールもあの場にいたことはまだ知りませんから)、とっさに嘘の演技をしたということなのでしょうか。
セイターの無線を傍受していると、逆さまで喋っている声が聞こえてきますが、劇中ではここでセイターが何を言っていたかはわかりません。
ここは考察の部分で触れたいと思います。
順行視点では、逆行セイターの乗るAudiはずっとバックで並走しているように見えますが、逆行視点では普通に前に向かって走行して、BMWと並走しているだけです。
むしろ逆行ドライバーにとっては、キャットをフリーポートに送り届けるまでのほうがよっぽど難度が高かったでしょう。
なにせ、ハイウェイで前進する順行車は、逆行視点で見れば猛スピードでこちらにバックしてきているわけですから。
順行車も逆行ドライバーも時速100kmで走っていたとしたら、相対的に時速200kmでこちらに向かってくる車を避け続けるということなので、かなり命がけだったんじゃないかと。
キャットを救うために、主人公は仕方なくケースをセイターに投げ渡しました。
この時点では、主人公がSAABに241を投げ入れたというのは観客には分からないようになっていますが、241をケースの外に出しているのがほんの一瞬だけ映っています。
でも初見ではそんなのには全く気づかず、逆行主人公が乗るSAABの後部座席で、241がいきなりコンコンコンと跳ね始めたときに「は????」となりました。
あのときだけ、241の行方が分からず焦るセイターと観客が同じ視点なんですよね。
問題のキャット負傷シーン。
キャットは逆行弾に”撃たれて”負傷してしまいます。
順行視点で見れば、ガラスに埋まった逆行弾がキャットのお腹を貫通して逆行セイターの銃に戻った、逆行視点で見れば、負傷しているキャットのお腹を撃って傷を直した、という現象が起きていることが分かります。
このシーンを単体で見れば特に問題はないのですが、ドアミラーの破損とオスロでの逆行主人公の腕の傷という、順行と逆行が接触したときに起こる因果の逆転現象描写があるせいで、キャットは車にいるときから負傷していて撃たれた瞬間に傷が治らないとおかしいんじゃないの?という疑問が浮上してきてしまいます。
これも別口で解説したいと思います。
全体を通して、逆行を知り尽くしたセイターの振る舞いによって、このシーケンスがめちゃくちゃ分かりにくくなっている、というのがよく分かります。
逆行をしている自分が順行側からどう見えるかを常に考え、自分も順行しているように見せかける、という非常にトリッキーな動きをしていますね。
尋問のシーンなんてまさにそれで、逆行するセイターの視点では、主人公の答えを聞いてからその答えに対する質問をするという、順行側と話が噛み合うような逆の行動をとっています。
疑問ポイントと考察
なぜセイターは赤の部屋でも主人公を尋問したのか
セイターの動きで一つだけよく分からなかったのがここ。
セイターは、逆行した未来の自分がキャットを撃ったことによって、主人公から「241はBMWのグローブボックスにある」という答えを聞き出しています。
なので、この時点で順行のセイターが主人公を尋問する必要はないように思えます。
にもかかわらず、セイターは急に姿を表して主人公を再度尋問し、案の定「今さっき言っただろ」と言われてしまいます。
なぜセイターは赤の部屋でも主人公を尋問せざるを得なかったのでしょうか。
このセイターの行動の理由は、セイターが今まで無線で誰からの報告を聞いていたのかを考えると分かってきます。
無線からセイターに報告していたのは、劇中でちらっと映りますが、Mercedesに乗っている順行のヴォルコフです。
ヴォルコフは、主人公による241強奪作戦開始時からずっと主人公を追跡し、その様子をセイターの指示通り逐一報告しています。
- 主人公の乗るBMWを追跡する
- 主人公から逆行セイターにケースが渡されたことを確認する
- Audiに合流して逆行セイターと逆行ドライバーを乗せる
- 逆行セイターが受け取ったケースが空であったことを順行セイターに報告
- 空のケースを道端に投げ捨てる
- 銃撃戦に向かう
- 逆行セイターが確認したBMWのグローブボックスにも241が入っていなかったことを順行セイターに報告
- フリーポートで逆行セイターを降ろす
ヴォルコフの行動は、おおよそこんな感じになっていたはずです。
順行のセイターはヴォルコフからの報告で、主人公から渡されるケースにも、BMWのグローブボックスにも、どちらにも241が入っていなかったことを知ります。
さらに、未来の自分が尋問している最中にアイブスの部隊が近づいているということも聞いていたのでしょう。
つまり順行セイターはあのとき、時間切れが迫っているのに、依然として241の所在が特定できず焦っていたのです。
これが、赤の部屋でギリギリのタイミングでセイターが姿を表し、主人公を尋問した理由なんだと思います。
しかし最終的には、逆行主人公が追いかけてきたことによって、SAABの中に241があったことを知ります。
主人公に向けた「連携プレーか。無駄に妻を撃った」というセリフは、主人公が自分自身の運転するSAABに241を投げ込んでいたこと、そして妻を撃ったことによって得られた情報は嘘だった(つまり撃つ必要はなかった)ことを表しています。
また、「こんなに心拍数があがったのは妻とでも無かった」とも言っていました。
主人公の機転によってそれだけ追いつめられていた、ということなんですね。
なぜ撃たれたキャットを逆行させる必要があったのか
これはバーバラ編でも述べましたが、順行者が逆行弾で撃たれた傷は逆行しないと治癒しないから、なのだと思います(順行のままだと傷が悪化し、数時間で死に至る)。
治癒には一週間ほどが必要でしたが、一週間さかのぼるとタリンの回転ドアはまたセイターの支配下に戻ってしまいます。
なので別の場所の回転ドアを使う必要がありました。
奇しくも、一週間前は主人公たちがオスロ空港で飛行機テロを起こした時期と一致し、オスロには回転ドアがあることが分かっています。
タリンのフリーポートには、偶然一週間前のオスロから到着したコンテナがあったのでそこに乗り込んだ、というわけです(一週間分の水やら食料やらはどうなってるんだ?そもそも逆行した状態だと食事や排泄はどうなるんだ?といったことは考えてはいけません)。
あのフリーポートにあったコンテナ、よく見ると普通のコンテナではなく、逆行人が呼吸できる特殊なものになってるんですよね。
ビニールシートのようなもので中が覆われていて、ニールがジッパーを開けているシーンがあります(TENETの船マグネヴァイキングの中で使われていたものとほぼ同様の仕組みだと思われます)。
セイターもTENETと同様に、逆行人を安全に輸送出来る手段を確保していたということが分かります。
なぜ主人公はセイターを追うことにしたのか
正直、ここもよく分かりませんでした。
順行主人公がSAABに241を投げ入れたとき、自分がSAABを運転していたことを知らなかったのか、それとも知っていたのかによって、主人公の動機が異なってきます。
知らなかったのならば、セイターを追いかけて止めることで、「キャットが撃たれた」という過去を変えようとした、ということになります。
しかし、それならあそこでセイターを追うという行動をとるのはおかしいんですよね。
なぜなら、セイターがキャットを撃ったのは、今まさに主人公が出ようとしているフリーポートの中だから。
主人公は逆行しているので、そこで待っていればそのうち逆行のセイターが回転ドアから出てきます。
順行のセイターがやったように青の部屋のすぐ外で身を潜めていれば、セイターにキャットが”撃たれる”前に、それを防ぐことができます(既に起こった結果を変えることになるので、そもそもこのようなことは起こり得ないのですが)。
逆行してからの主人公の行動を見るに、主人公はSAABを運転していたのが自分だったことを知っています。
主人公はSAABに乗り込んだ直後、まっさきに後部座席を確認していますよね。
なぜ後部座席を確認したのか?
それはこのSAABが、さっき自分が241を投げ込んだSAABだと知っていたからにほかなりません。
つまり、主人公はSAABを運転していたのが自分だったことを知っていた、ということになります。
※主人公が241をそこで回収しちゃえばよかったのに、と考えてしまいそうになりますが、それは不可能です。
241がSAABに投げ込まれ、フリーポートに停まっているSAABの後部座席にある、という結果がすでにこの時点で決まってしまっている以上、241を回収できるのは主人公がSAABに乗り込むよりも先の未来、ということになります。
なので主人公は、横転したSAABを運転していたのが自分だったということを知りつつ、あえてセイターを追ったということになります。
241の回収を最優先に考えるのならば、主人公はSAABの後部座席に241があることを確認した時点でフリーポートに戻り、アイブスやニールに「一度順行に戻ってSAABの後部座席から241を回収してくれ」と頼めばよかったはず。
でもそれをせずにセイターを追跡したのはなぜなのでしょうか。
それはおそらく、自分と出会う前から既に深くTENETに関わっていたにもかかわらずそれを隠していたニールや、241の所在を全く気にする様子がないアイブスたちを信用していいかどうか分からなかったからなのだと思います。
横転するSAABから生還したあとになんとかして順行に戻り、SAABの後部座席から241を回収するつもりだった(そしてそれが叶わなかったうえにセイターに241の在り処を知られてしまったことから、コンテナで「241は奪われた」と言った)。
しかし爆発により気を失っていたところをニールに助けられたことで、ニールを本当に信用する気になった、ということなのかなと。
なぜ主人公は凍ったのか
主人公が初めて逆行を行ったとき、ヒントになる説明をホイーラーがしていました。
ホイーラーはこのとき、逆行状態では摩擦や空気抵抗は逆になるし(主人公がSAABで走り出すとき、リバースで発進していた…と思います)、炎は氷になる、こんな感じのことを言っていました。
炎が氷になるってどゆこと?という感じですが、これは多分、熱力学の第二法則が関わっているからなんだと思います。
熱力学の第二法則とは「熱は高いところから低いところに移動する。その逆はない」というものですが、これはほぼイコール「エントロピー増大の法則」です。
そしてもともとこの映画内での「時間逆行」とは、「物質のエントロピーの流れを逆転させること」でした。
ということは、逆行している物質に対しては「熱は低いところから高いところに移動する」という熱力学の第二法則の逆転現象が起こるのではないでしょうか。
逆行している主人公の近くでガソリンの炎上・爆発という超高温の現象が起きたため、主人公は体温を急激に奪われ低体温症になってしまったのです。
主人公は逆行していたから低体温症になったというのはいいとして、SAABの窓ガラスも凍ったように見えたのはどういうことなのでしょうか?
後述しますが、これにはこれでちゃんとした理由があります。
結局セイターはいつ241(アルゴリズムのパーツ)を回収したのか
この一連のカーチェイスは、主人公たちVSセイターたちによる241の奪い合いだったはず。
なんですが、セイターが241の場所を特定した、というところでこのシーケンスは終わっており、その後セイターがいつどうやって241を回収したかまでは描かれていません。
この謎を解く鍵は、
- 主人公たちが241を回収した直後に無線から聞こえてきた逆再生の声
- セイターの無線は順行ヴォルコフに繋がっている
- SAABの後部座席にある241は、逆行主人公が乗り込むよりも未来ならいつでも回収可能
この3つにあります。
1つ目と2つ目から、あの逆再生の声は、逆行セイターからヴォルコフへの何らかの指示だった、と考えることができます。
ではその指示の内容は何だったのか。
それは3つ目から、「SAABの後部座席から241を回収しろ」というものだったと考えることができます。
順行ヴォルコフは、逆行セイターをフリーポートに”降ろした”あと、アイブスの部隊が接近していることを知り、そのことを順行セイターに報告しつつ自分は身を隠します。
ヴォルコフはアイブスの部隊に順行セイターが殺されることはあり得ないと知っているので、アイブスとセイターは放置しておいても問題ないと判断したのでしょう。
そして、逆行主人公がフリーポート内に逆再生で入っていくのを確認した後で、悠々とSAABの後部座席から241を回収します。
ヴォルコフはついに完成したアルゴリズムを持って、スタルスク12へと逆行していきます。
SAABはどこから来たのか
ここまでで、主人公の乗ったSAABはどこから来たのか、あの時点でなぜフリーポートに停まっていることができたのか、気になりませんでしたか?
順行視点では、SAABはハイウェイ上で爆発してから逆再生でフリーポートにたどり着きました。
ということは、爆発するよりも過去には五体満足のSAABは存在しないことになってしまいます(前もってセイターの部下がフリーポートに停めておいたと仮定すると、フリーポートからハイウェイ上に一瞬でワープしていることになってしまいます)。
それはいくらなんでもおかしいですよね。
あのSAABはどこかの時点で製造され、納車され、そして爆発で一生を終えたはずです。
ということは、あのSAABは主人公が乗り込むよりも未来で回転ドアを通過した逆行車だったのではないでしょうか。
こう考えれば、主人公が乗る前にSAABがフリーポートに停まっていても問題ありません。
それに、炎上によってSAABの窓ガラスが凍ったように見えたのは、SAABも逆行していたからだとしたら、納得できます。
赤の部屋のシーンを注意深く見ていると、部屋の端の方にカバーが掛けられた車が1台置いてあることがわかります。
そしてあのフリーポートにあった回転ドアはオスロのものに比べて巨大だったので、車1台くらいは通れたと思います。
後部座席から241を回収した順行のヴォルコフは、赤の部屋に置いてあったSAABに乗り込み、回転ドアに入ってフリーポートのあの場所に停めてから、そのままスタルスク12に向かったのではないでしょうか。
ちなみに、セイターたちが使っていたAudiとMercedesは、順行車だと思います。
Mercedesは、最初から最後まで順行の部下(おそらくヴォルコフ)が運転していますし、Audiが逆行だった場合、誰も運転していないのにMercedesとの合流地点まで自動的に走ってきたことになってしまいます。
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